2012/9/27の記事を再度掲載しました。
ジョウロウホトトギスは9月下旬から10月上旬が見ごろだと思いますが、
2011年9月23日、撮影
2011年9月23日、撮影
名付け親の牧野富太郎博士は、その由来を牧野日本植物図鑑に、次のように書いています。
「
和名上臈杜鵑ハ初メ土佐横倉山ノ産品ニ余ノ命ゼシ和名ニシテ其花上品ニシテ美麗ナレバ此名ヲ得タリ、
上臈ハ宮中ニ奉仕セシ貴婦人ヲ云ウ。」
学名は、Tricyrtis macrantha Maxim. です。Maxim. はロシアの植物学者マキシモヴィッチです。
牧野博士は、標本をロシアへ送り、マキシモヴィッチが新種として発表した。当時の日本では、牧野博士といえどもそれだけの力がなかったということでしょう。
しかし、その後、牧野博士は、ヤマトグサを Theligonum japonicum Okubo et Maxino として発表し、
学名をつけた最初の日本人の栄誉を得ました。
(連名 Okubo は、元老院議員であった大久保三郎ということです。)
今年(
註 2012年)は、「牧野富太郎生誕150年」ということで、たくさんの行事がありました。
4月には、その一つとして、記念切手が発行されました。これには、
ガマズミ、ジョウロウホトトギス、ヒメキリンソウ、ホテイラン、コオロギラン
の5種の、博士の描いた標本が載っています。
記念切手の元になった標本画
記念切手の元になった標本画
発行後まもなく、この中のジョウロウホトトギスが話題になり、地元新聞にも載りました。
天地逆さまではないか、という声が上がったというのです。
この花は茎が垂れ下がって、下向きに咲くはずだ。上向きに咲くことは決してない。
日本郵便のミスではないか、という訳です。
しかし、すぐに博士の描いた標本画が忠実に印刷されていることが明らかになりました。
この標本画の印刷は、牧野植物園内の売店でも売っていますから、私も一度は見たことあるはずですが、
その時は、特に奇異な感じ受けませんでした。
しかし、言われてみると、確かにおかしい、不自然だと思います。
「石灰岩の岸壁で発見した」と博士が書かれているように、
岸壁の高い所から茎が垂れ下がって、その先端から数枚の葉の腋に、ひとつずつ花を付けます。
その花は、筒状で、重量感があって垂れ下がっています。
岸壁の下の平らな地面に生えていたら、茎ははじめは立ち上がりますが、
途中から曲がって、花のつく当たりの茎は下向きになっています。
茎が下向きに垂れるのは、ジョウロウホトトギスに限ったことではありません。
ホトトギス(種としての)が立ち上がっているのは、あまり見かけません。
ヤマジノホトトギス
ヤマジノホトトギス
ヤマジノホトトギスは、斜面に生えた大きな株の茎は垂れ下がるが、平地のものや小さな株は立ち上げる傾向があるようです。ヤマホトトギスは、たいてい立っていますが、この種が斜面に生えているのは、まだ見たことがありません。
茎が立ち上がるかどうかは、その種としての特質だけでなく、生えている場所が平地であるか、斜面または崖であるかなどの条件が影響すると思います。
しかし、茎の向きがどうあっても、「ジョウロウホトトギス」と名のつくもの以外のホトトギス属は、花は上向きに咲き、平開しています。
平開せず筒状になって、垂れ下がるのは、ジョウロウホトトギスだけです。
天上の、植物学の父は、下界の騒々しさを如何思し召しや。
付記:
問題の標本画は、日本植物志図篇(明治21年発行)の最初のページに載せられています(その時点では彩色されていない)。
そのずっと後(昭和15年)に出版された、牧野日本植物図鑑のジョウロウホトトギスの項を見ますと、
「(前略)茎ハ撓曲シテ懸垂シ、(略)花ハ葉腋ニ出デテ下垂シ(以下略)」と書かれています。
この記載の側の図は、茎(上部だけ)は下向きに、花ももちろん下向きに描かれています。
ただし、この作図は、博士自身によるものか、別人の作図なのか、はわかりません。





タグ:ユリ科 ホトトギス属 ジョウロウホトトギス